253 「河童」
カッパで思い出しましたが、数年前に母親の体調が良くないというので掛かりつけの病院に連れて行ったときの話です。別にこれといった病気は見つからなかったのですが、とりあえず点滴を受けることになり専用の部屋で点滴を受けます。
母親はそれぞれにカーテンで仕切られた6つあるベッドの一番奥のベッドを使用していたのですが、他には部屋の入り口のベッドに奥さんらしき人に付き添われたご老人が一人点滴を受けているだけでした。
ご老人は今の自分が置かれた状況をあまり把握できていないらしく仕切りと付き添いの奥さんに質問します。
「わしは今、どこにいて何をしとるのかのぉ…」
奥さんはそれにやさしく対応するのですが、私がカーテンの閉まった母親のベッドの脇でたまたま鼻のムズ痒さを解消する為に鼻から思い切り息を吸った拍子に出たブタの鳴き声のような「フゴッフゴッ」という音にそのご老人が反応しました。
ご老人「おい、ここにはカッパがおるぞ」
奥さん「そうですか、カッパがいますか?」
ご老人「ああ、確かにおる。あのカーテンの向こう側で鯉釣りをしておる」
ご老人はこちらを見て興奮しているようでした。時間を追うごとに御老人のテンションは上がる一方で奥さんの対応も大変になってきます。このままではマズイと思い意を決してカーテンの外に出て行くことにしました。
その時、自分でも何故そんなことをしたのか理解出来ないのですが、少しだけ自分の顔を河童の顔に似せてしまったのです。おそらくご老人のプライドを傷つけまいとする無意識の行動なのでしょうが、中途半端にくちびるを尖らせてみたり無意味に目を細めてみたりしてしまったのです。
それがかえってご老人に刺激を与えてしまったようで、私が部屋を出た直後ひどくうなされていました。
…申し訳ありません。
コオロギのアトリエ