不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

328 「火鉢」

知り合いのTさんから聞いた話です。Tさんのご主人は自宅からさほどと遠くない所に別荘を持っています。別荘と言っても使わなくなった家具や電化製品を収納したプレハブの倉庫のようなものなのですが、従業員や気心の知れた人達が仕事を終えた後にお酒やツマミを持ち寄って集まる憩いの場所のようになっているそうです。

その日に誰が来るのか何人いるのかは決まっていないので、それも楽しみのひとつだそうです。その日も仕事を終えたTさんのご主人は『事務所』とネーミングされたその別荘に直接向かうのですが、その日は8時を過ぎても誰も集まらなかったそうです。アルコールのせいもあったのでしょう、その事務所のソファーでご主人は寝てしまいます。

一方、Tさんはと言うと帰りの遅いご主人を心配して携帯に電話します。ところが何回コールしてもご主人が電話に出ないので大方事務所で酔っ払って寝込んでいるのだろうと鋭い勘を働かせるのですが、10数回目のコールで携帯がつながります。

つながった途端にTさんのご主人に対する一方的な言葉の攻撃が始まり「早く帰ってきなさいよ!わかったの!」という言葉で締めくくり、ご主人の反応を伺うのですが何の言葉も帰って来ません。電話に誰かが出ている事は確かなのでTさんはとっさに電話に出たのはご主人ではなく事務所に来ている別の誰かだと思い、自分が声を荒げた事を後悔します。

Tさんはその時の受話器から聞こえる物音から向こうの気配をこう説明してくれました。

               火鉢-s

『誰かが無言で電話に出た後、その携帯を手に持ったまま数メートル離れたソファーで眠るご主人の所まで移動し、その携帯をご主人に差出しながら「×××」とTさんの名前を低い男性の声で告げた』

Tさんは一方的に声を荒げてしまった事を他人に聞かれたのと自分の名前を呼び捨てにされた事に『カチン』と来たのとで電話を切るのですがどうしても気持ちが治まらず、すぐに2度目の電話をかけます。すると今度はすぐにご主人が出ます。

Tさんは「さっき電話に出たのは誰なの?」とご主人に詰め寄るのですがご主人は自分以外には誰もいないと言います。その電話が2度目であることもご主人には信じられないらしく着信履歴を確認してやっと納得します。誰も居ないはずの部屋で誰かがご主人の携帯に出た事にひどく恐怖したご主人はそれ以降絶対に一人では事務所に行かなくなるのですが、Tさんにポツリとこんなことを言ったそうです。

「もしかしたらあの火鉢かも知れない」

その火鉢は数日前に人から頂いてきたものらしく、電話に出たのは亡くなられたその火鉢の持ち主だったのではなかろうかとご主人は思っているようなのです。その話を聞きながらふと思ったのですが、もしそれが霊的なものであるならそれはご主人ではなくTさんの方に関係していて、それはTさんを優しく見守っているようなイメージがあるのです。

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