368 「共感覚」
音に色を感じたり、香りに音を感じたり、ある刺激に対して本来の感覚とは別の感覚が機能することを共感覚と言うらしいのですが、自分もそれを感じることはありますが感じているだけで共感覚者のように見えたり聞こえたりはしていないようです。
ところが一度だけ確かに色彩の音が聞こえた事があるのです。それは10年位前の夏の夜でした。友人宅からの帰り道は左手に夜の別府湾を眺めながらの贅沢なドライブになるのですが、その日は満月ということもあり途中の海岸で車を停めてしばしお月見としゃれ込みます。
その夜の満月の美しさは特別で、別府湾の海面で乱反射する月の光がこの世のものとは思えないくらいに荘厳で、不思議なことにその光が音として聞こえるのです。
どんな音かと言いますと、たとえば『水晶を限りなく薄くスライスした短冊を一枚一枚蜘蛛の糸よりも細い銀の糸で吊るし、それが恋する乙女のため息で揺れた時の音』とでも言いましょうか、それは々哀しいほどに美しい音でした。
驚いたのはその光の音に更に色が見えるのです。実際その時の自分は『音を観ている』のか『色を聴いている』のかわからなくなっていました。もしかしたら昔の人はそういう状況の下で、そこに神仏を観たのかも知れません。
コオロギのアトリエ