不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

385 「黒いトンボ」

この話はうろ覚えなので本来の内容と少し違うかも知れませんが、わたしの記憶の中の話ということでご理解ください。美術館をされているFさんから聞いた話なのですが、ある作家さんが絵画の展覧会を開催します。

その作家さんは数年前に亡くなられていて、奥さんがその展覧会の準備をされたと聞きました。展覧会は大盛況で、Fさんはその展覧会の様子を最終日に行うフォーラムで皆に観てもらおうとビデオに収めるのですが、会場の様子と作品をビデオに撮った後、ふと受付のカウンターの上に広げられた芳名帳に黒いトンボが一匹とまっているのを見つけたそうです。

                黒いトンボーs

それが面白かったのでついでにそれもビデオに収めます。展覧会も無事に終わり関係者が集まったところでフォーラムと言う名の宴会が始まります。Fさんのビデオも会場の大画面に映し出され宴も盛り上がった頃に奥さんが突然「ちょっと、今のトンボの所、もう一度見せてくれませんか」と言うのでビデオを巻き戻しその場面で静止させるのですが、改めてその画面を確認した奥さんは涙ながらにこう言ったそうです。

「あの人、展覧会を見に来たんだわ…」

その黒いトンボがとまった芳名帳に書かれていた名前は何とご主人と同姓同名だったそうです。もしかしたら黒いトンボは楽しみにしていた自分の展覧会を観に来たご主人だったのかも知れません。

実は話の内容に自信が持てないのはこの話の中に出てくる『黒いトンボ』が異常に気になってしまい話に集中できなかったからなのですが、Fさんの話によると「墓地とかで良く見かける黒いトンボ」と言うだけでその種類まではわかりません。そのビデオを見れば真っ黒なトンボを確認できるのでしょうか。

コオロギのアトリエ 

384 「梅干し」

爆発と言えば随分昔に知り合いのMさんの家で昼食を御馳走になった時のことです。奥方の手料理を堪能した後、食後のデザートをいただきながらテーブルを囲んで楽しく3人で雑談をしていた時にたまたま視線の先の窓辺に置かれた大量の梅干しが入った大きなガラスの容器が窓から差し込む陽の光を受けてとても美しかったのでしばらくそのビンの話題で盛り上がったのですが、話の途中で突然Mさんが「あの梅干しのビン、少し膨らんでいないか」と言いだします。

そう言われればそのように見えなくもないのですが、ガラスの厚さが1センチ以上もありそうなシッカリしたビンなのでそんなことはまずありえません。ところが「キチッ」というガラス同士が擦れあう音がしたと思った瞬間、「ドンッ」と言う音と共に梅干しのビンが爆発したのです。

                    umebosi-s

ビンの破片は部屋中に飛び散り、壁や襖に突き刺さるのですが3人に怪我がなかったのは奇跡でした。1センチ以上の厚さがあるビンの欠片を拾い上げながらMさんは言います。

「ガスが貯まっていたのかなぁ」

ビンの中にガスが発生していたのかどうかはわかりませんが、ビンの中の気体が膨張したのが原因であろうと思われました。ただその時、何となく何かに対する警告のようなものを感じたのが自分でも不思議でしょうがなかったのですが、翌年にMさんが亡くなったと聞いた時にその時の妙な感覚を思い出したのは事実です。

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383 「ゆでたまご」

かれこれ30数年程前の事になります。当時は妻の母親と同居していて食事も3人一緒だったのですが、どこかに遠慮のようなものがあり、どうかするとご飯のお代わりを躊躇してしまうこともありました。

そんな日は夜中にお腹が空いてしまうので妻と母親が寝静まった後にキッチンに忍び込んで何とかするのですが、ある夜中にこれといったものを見つけられなかったので『ゆでタマゴ』を作ることを思いつきます。

普通に鍋でお湯を沸かす方法では時間がかかるし音も出るので電子レンジを使うことを思いつくのですが、どのくらいの時間で出来るものなのかがわかりませんから、とりあえず2個のタマゴをレンジの中に入れ700ワットで3分間のセットをします。

                 ゆでたまご-s

何しろ初めてのことで心配ですからレンジの中の照明を点けて至近距離でレンジの中の様子を確認していました。1分を過ぎた頃でしょうか突然「ドッカ~ン」という爆発音です。その衝撃は凄まじく、レンジのドアが少し開いたくらいです。何が起こったのかと放心している所に再び「バッカ~ン」です。

キッチンに駆け込んできた妻と母親は初めは私の身体の事を心配してくれましたが原因を理解すると呆れていました。電子レンジでゆでたまごを作る時にはあらかじめ卵の殻に空気を抜くための穴を開けておくべきだとその時初めて知りました。

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382 「蜂の巣」

その滝には季節ごとに訪れるので最低でも年4回は足を運ぶ事になります。日本の滝100選にも選ばれているその滝の優雅さはどことなく観音のイメージがあって個人的にとても気に入ったスポットとなっているのですが、ある時同行してくれたTさんが滝の上の方を指差しながら「ハチの巣がある」と言うのです。

Tさんの指さす場所は85メートル近くある滝の上の方の岩場でしたのでそこにハチの巣を確認するのはほぼ不可能に思われました。Tさんは余程目が良いのだろうと感心していると「1メートルはあるね」と言うのです。

『ウソだろ』と思いながら良く々見ると何と垂直にそそり立つ岩場に巨大な丸いハチの巣があったのです。岩の色と同化しているとは言え、何年もその滝に通っているのに私はその大きなハチの巣に全く気づかなかったのです。実はTさんは1メートルと言いましたが距離から判断してそのハチの巣はどう見積もっても軽自動車位の大きさはあると思われました。しかし何故今までそんな巨大なものに気づかなかったのかが不思議でなりませんでした。

                   蜂の巣-s

ところがです。それから2週間も経たないうちにもう一度その滝に行くチャンスがあったので証拠の写真を撮っておこうとデジカメ持参で滝を訪れショックを受けます。ハチの巣がないのです。1日、2日雨の日はありましたがハチの巣に影響を及ぼすほどの雨でもありませんでしたし、強風の日があったわけでもないのです。

滝壺の周辺も探してみましたがハチの巣が落下した形跡もなく、まるで狐につままれたようでした。その後、滝のハチの巣のことをいろんな人に聞いてみるのですがあの巨大なハチの巣を見たのは今のところTさんと私の2人だけなのです。

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380 「お子様ランチ」

福岡で仕事をしている時のお話です。夕食は100%外食で、いろんな食堂やレストランを適当に周っていたのですが月に1~2度、餃子が美味しいことで有名な大型中華飯店に行っていました。その日も大勢の客でごった返した店内の隅っこで餃子定食をいただいていたのですが、食事が終わったのか食事に飽きたのか、5~6歳の男の子と女の子が店内を走り回っています。

そして私のテーブルの前で立ち止まり、壁に貼られたメニューを端から順番に大声で読み始めたのです。どうも漢字はまだ読めないようで、ひらがなとカタカナの部分だけを2人そろって読み上げるのです。メニューのほとんどが漢字でしたのでまともに読めるものはほとんどなかったのですが、子供のすることですから周りの大人達も和やかな感じで見守っていました。

                 おこさまランチ-s

ところがメニューの後半にひらがなとカタカナで『おこさまランチ』とあったのでその辺にいた大人達はそこだけは唯一チャンと読めるであろうと内心期待して2人がそれを読み上げるのを待っているようでした。

そしてその瞬間はほとんどその辺に居た全員が箸を止めてメニューの方に顔を向けていたのですが、事もあろうに2人そろって『お、こ、さ、ま、、ン、チ』と読んだのです。その時、私は生まれて初めてお笑いタレントではない普通の人が口から餃子を『ポンッ』と音を立てて飛ばすのを見ました。

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379 「黄色い蝶」

別々の出来事がいくつもの偶然によって一つに繋がった時、それまで漠然と感じていたメッセージのようなものをメッセージとして確信する瞬間があります。画家のNさんは展覧会の準備で忙しいさなかに最愛の母親を亡くし、哀しみの中での制作を余儀なくされます。

初七日も無事に済んだ頃、沈んだ気持ちのまま大作を制作していると、真冬だというのにアトリエの中に黄色い蝶が入って来てその制作中のキャンバスにとまったそうです。結局その黄色い蝶はその作品が完成するまでそこにジッとしていたらしいのですが、Nさんはその蝶はきっと母親で、自分を見守ってくれているのだと思ったそうです。


それだけなら世間で良くあるステキなお話で終わるのですが。それは1年以上経ったNさんの個展会場で起こります。私は最終日に伺い会場の片づけを手伝わせてもらったのですが、その時にNさんから名刺をいただきます。

                   黄色い蝶-s

その名詞は画家のTさんにパソコンで作ってもらったものらしいのですが、例の思い出の黄色い蝶がとまった作品の写真がレイアウトされた素敵な名詞でしたがTさんのミスで作品の写真は上下が逆になっていました。抽象的な作品でしたのでNさんはそれはそれで気に入っているようでしたが、良く見ると画像が反転しているのです。

それまで誰も気が付かなかったのですが画像が裏返しなのです。そのことをTさんに確認すると画像の上下が逆になることはあっても画像が裏返しになることはあり得ないと言います。後日その名刺を作り直したTさんがその画像をそのまま反転させて前の画像と何気なく並べてみて驚きます。何と淡い抽象的なグリーンの画面のほぼ中央に黄色い蝶がとまっているように見えたと言います。

TさんはNさんと黄色い蝶の関係は知らずにその面白い画像をNさんに見せるのですが、その画像を見せられたNさんは母親から見守られている事を確信したそうです。偶然と言えばそれまでですが、いくつもの偶然が重ならなければその現象が起こらなかったのも事実です。

私もその画像を見せてもらったのですが、まるでそこに黄色い蝶がとまっているかのような見事な蝶でした。Nさんと黄色い蝶のシンクロはこれからも続きそうな気がします。

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378 「露天風呂」

「思い込み」といえば高校の修学旅行の時にこんなことがありました。その大きな旅館には立派な温泉があるのですが、就寝時間も間近になった頃にH君が「露天風呂に入らないか」と言い出します。その旅館には露天風呂はなかったはずなのですがH君の情報によると中庭に露天風呂があるというのです。

旅館の建物は中庭をグルリと囲むような造りですので私も何度か中庭は目にしていたのですが露天風呂がある事には気づきませんでした。それを確かめたいのもあって私はタオルを片手にH君の後について行くのですが、時間もおそかったので旅館内の照明も暗くなっていて中庭に至ってはほぼ真っ暗でした。

中庭の中央でジャブジャブと水音をたてながら「こっちこっち」というH君の声のする方に進むと湯船につかっているH君が暗闇の中にうっすら見えたので私も湯船に入ります。ところがお湯が思ったよりもぬるく、しかも浅いのです。H君に言わせると時間も遅いのでお湯を抜いたのだと言います。

                露天風呂-s

お湯の量は納得出来ても温泉だというのにお湯の温度が低い意味がわかりません。それに時々足先に触れるヌメッとしたものの正体がわからないのでH君に訊ねようとしたその瞬間です。「さ、魚、さかな」とH君が悲鳴を上げるので私も驚いて立ち上がるのですが足下がヌルヌルして上手く湯船から出る事が出来ません。

焦れば焦るほどバランスを崩し2人してバシャバシャとやるものですから女子達が「誰か中庭にいる~」と騒ぎ出しその内旅館の人や先生も駆けつけてきて大事になります。照明に照らされて初めてそこが鯉の池だとわかるのですが、先生方の優しい計らいにより冷えた体を温めるべくもう一度本物の温泉に入ることを特別に許可されるのでした。

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