不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

004 「墓参り」

毎年お盆が近づくと必ず思い出す事があります。新婚当時に母方の墓参りに初めて妻を連れて行った時の話です。その年の墓参りは2台の車で現地に向かうことになり、妹が母を、私と妻は岩田町のおばさんを連れて市内のお寺で落ち合う事になっていたのですが、私達の方がかなり早くに着いてしまいました。

妹の到着を待っていても仕方がないので先に参ってしまおうと言うことになり、私たち3人は寺に備え付けの桶を借りお墓に向かうのですが何故か本堂の真裏の位置にある墓をおばさんは素通りしたのです。私は毎年墓参りをしているので、墓を間違えるということはありません。先に別の墓でもお参りするのかと思い私と妻はおばさんの後について行きました。

建物に沿って右に曲がるとそこにも沢山の墓が並んでいたのですが、私は毎年この寺に来ているにも拘らずそこに墓があることを知りませんでした。その中に一際立派な白い墓があり、おばさんは当たり前のようにその墓に向かいました。その真新しい墓には5、6段の階段があり、階段を上るとかなりのスペースが確保されたその真ん中に見上げる程の立派な墓碑がありました。

普通に掃除を始めたおばさんに倣い私たちも掃除を手伝ったのですが今ひとつ腑に落ちません。いつもと違うパターンに戸惑いながら、榊を活け、線香をあげて手を合わせるおばさんの横で私も手を合わせながら墓に彫られた名前を確認したのですが、確かに母方の名が刻まれていたのです。

『そうか、きっと自分の知らないうちに建て替えたんだ』

私は勝手にそう解釈しました。その時、おばさんにそのことを聞けば良かったのですが、どうもそんな雰囲気ではなかったのです。余りに淡々としているので聞くのも悪い気がしたのと、何故か聞いてはいけないような気がしたのです。




駐車場に戻るときも古い墓の前は素通りで、しかも母方の実家で合流した母と妹の二人を交えての世間話の中にも不思議なことに一度も新しい墓の話題が出てこなかったのです。
 
次の年の墓参りは私たち夫婦と母と妹、それに妹の子供の5人でした。私と妻が先頭で墓に向かったのですが、何故か一年経っても古い墓はそのままで、私と妻はその墓の前を素通りして新しい墓に向かいました。

「どこに行くの?」

後ろから私達を母が呼び止めるのです。

「新しい墓に…」

私がそう言うと母は呆れたように言うのです。

「どこに新しい墓があるの。この墓が昔からズーッと、うちとこの墓やで」

最初は冗談だと思いました。

「何を言っているの、去年は向うの新しい墓に参ったよ。ほらこっちの…」

そう言いながら建物を右に曲がろうとしたのですが、右側にはブロック塀があってそれ以上進めません。何と行き止まりだったのです。塀の向う側には草の生い茂った小さなスペースしかなく、墓などひとつもないのです。私も妻もかなり動揺し、二人して去年の墓参りの話を母に言って聞かせるのですが、その墓も、墓のあった場所もないのですから信じてもらえるはずもなく、まるで狐につままれた様でした。

それからと言うもの、お盆が近づく度にその事を思い出しては二人で不思議がるのです。

ちなみに後にその事をおばさんに訊ねてみたのですが、何故かおばさんにもその記憶がないのです。


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