不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

005 「ヤマカガシ」

 私が子供の頃を過ごした環境は、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』に出てくる風の谷と言うよりは、どちらかと言うと『ムーミン谷』に近かった様に思います。ほのぼのとして、そこに暮らす人達は皆家族のように仲が良かったのです。子供達も年齢ごとにまとまることはなく、小学生の低学年から中学生までが一つの集団として理想的な形でまとまっていました。

子供たちの遊びにはブームがあって、竹馬、釣り、メンコ、吹き矢、ビーダマ、何故かただひたすら走る、などという訳のわからない遊びもブームになったりしましたが、遊びに事欠くことはありませんでした。おかげで有意義な子供時代を過ごす事ができたのですが、そのブームの中に夏休みの最初の日にその夏だけのリーダーを決める、というのがありました。

その方法がスゴイのです。その辺の草むらから『ヤマカガシ』という蛇を捕まえてきて、それぞれが自分の腕や指に噛みつかせるのです。一番派手に深く噛ませた者がその夏のリーダーとなるのですが、当時の臆病な小学生の私にはそんな勇気はありません。リーダーになるのは決まって中学生の中の誰かなのですが、誰も文句は言わないのです。その勇気に敬意を払い、尊敬の念を持ってリーダーの意向に従い、そのひと夏を楽しく過ごすのです。




しかし、そのブームは2年で終了しました。2年続けてリーダーが亡くなったのです。二人とも夏休みが終わる頃に原因不明の亡くなり方をしたのです。さすがに大人たちも困惑した様で、学校側からの通達もあった事もあってしばらく我々の行動は大人達に監視されることになり危険と判断された遊びはことごとく禁止され、勿論夏休みのヤマカガシも中止です。その成果かどうかは解かりませんが、その後そういったことは一度も起こることはありませんでした。

ムーミン谷に平和が戻ったのですが、それから数十年が経過しても心のどこかでそのことは気になっていました。
 
実は最近こんな情報を耳にしたのです。『ヤマカガシ』は北海道を除く日本全土に普通に生息するポピュラーなヘビで毒はないとされていたにも拘らず、1984年に愛知県の中学生がヤマカガシに噛まれて亡くなっているのです。その後の調査でヤマカガシには喉の奥の方に小さな牙があり、毒を持った蛇だと言うことが判明したのです。その毒は時間をかけてゆっくりと人を死に至らしめるということでした。


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