不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

014 「磁力」

    従弟のS君が体に磁力を持っていることは成人してから知りました。人には微量な磁力があるらしいのですが彼の場合、微量とはいえませんでした。本人が言うには子どもの頃から自分の磁力には気づいていて、床に落ちた画鋲や針は指でつままずに指先にくっつけて拾っていたらしいのですが彼はそれを普通だと思っていたようです。しかも、おそらく冗談なのでしょうが自衛隊時代に何かの間違いで放射線を浴びてから磁力はパワーを増したらしいのです。まるで『ゴジラ』みたいな男です。

そのことを知った当時は暇さえあれば彼の磁力のパワーの実験に明け暮れていました。実験は彼の家で行うのですが、なぜか決まってキッチンのテーブルでした。彼に言わせると、そこが一番リラックス出来る場所らしいのです。実際に色んな場所で試してみましたが、どうもそれは本当のようでした。

彼の磁力は主に指先に集中していたので最初は『針』を指先にくっつける実験をしていたのですが、それを確認した後は方位磁石(コンパス)の針を動かす実験になりました。勿論方位磁石にはガラスのカバーが付いており、針に指が触れることはありません。最初は微妙に動くだけでしたが、2時間もすると九十度から一八〇度位は動かせるようになり、その内、自由に回転させられる様になりました。



パワーは日に日に強くなって行き遂には針が確認出来ない位のスピードで回せるようになったのですが、何とその頃になると私も動かせるようになっていたのです。しばらくは自らのパワーアップに専念したのですが、自分の家では全く動かないのです。なぜかS君の家のキッチンのテーブルでS君がいなければ出来ないことから、もしかしたらS君はそれを見つめるだけで金属を動かせる能力があるのではないかと思いその実験をしたところ、やはり彼は見るだけで磁石を動かせたのです。

それまで磁力と思い込んでいたのは、どうも磁力とは違う何かでした。そんなある日、実験中にキッチンの天井から吊り下げられたコード付の安物の蛍光灯がまるで誰かが振り回してでもいるかのようにグルグル回転するのを見て私たちはその日限りで実験を中止することにしました。


コオロギのアトリエ