043 「UFO(後)」
地上に降りたそれは上空にあったときよりも更に大きく感じました。そしてそれが完全に着陸しているのではなく、地上から少し浮いているということを暗闇の中でも確認できたのは、中央の出入り口らしき所から何者かが出てきた時の反動でそれが少し揺れたからですが、よく見るとそれの周りには何人もの人がいて、どうも地上にそれを固定する作業をしているようでした。
地上に設置された金属の「杭」のようなものに4方向からロープのようなもので固定していたのです。宇宙からの訪問者にしてはえらく原始的な方法です。そのとき暗闇の中から声が聞こえました。
A「シャントクビッチョカンナトンジイッチシマウケンノォ…」
B「ショワネエッチャ、ホドコウタッチャホドクラヘンデ」
一瞬、地球外の言葉かと思いましたが、何とそれは地元の方言でした。しかも最近ではめったに耳にすることのない純粋の方言です。
A「ちゃんと結んでおかないと飛んで行ってしまいますからねぇ…」
B「大丈夫ですよ、ほどこうとしたってほどけはしないですよ」
そうです。それは「飛行船」でした。そこの造船所では飛行船も製造しており、夜中にテスト飛行をしていたのです。上空から不審な私達を見つけイタズラ心でスポットライトを照射したのです。ガッカリしたのと同時にちょっと安心したのもつかの間、飛行船から降りてきた人が言いました。
「さっき向こうに釣り人がおったよ。どこから入るのかねぇ。ちゃんと注意しとかんとイカンなぁ、まだその辺に…」
私たちがその場から全速で駆け出し、正門を乗り越え車を発進させるまで、3分とかからなかったと思います。
コオロギのアトリエ