099 「携帯電話」
勘違いは良くあることですが、周囲の人まで巻き込んでしまう程の度を超えた勘違いというのは滅多に経験できるものではありません。
その日もT君と一緒に朝から湯布院の森の中で作業をするのですが、私は作業の前には必ず携帯電話の着信メールをチェックするのが恒例のようになっていて、チェクを終えた二つ折りの携帯を折り畳む音が「パタン」と森に響くとT君が「良いメールが入っていましたか?」と突っ込むのも恒例のようになっていました。
午前の作業を終え昼食の準備をしている時にその携帯電話がない事に気付きます。どこかで落としたようなのでT君の携帯で呼び出してもらうのですが携帯を耳にあてたT君が悲鳴を上げます。
「だ、誰ですか?…エッ!…エエッ!」
何と私の携帯に誰かが出たようなのです。それは私の妻でした。彼女の話では私が家を出る時に携帯を家に忘れて行ったというのです。
私は朝、確かに携帯をチェックしていますしT君もそれを確認しているのです。何とも腑に落ちない出来事でしたがおそらく私の勘違いです。その勘違いは度を超えていて、ありもしない携帯電話を物質化してしまったのでしょう。
不思議なのは、朝その架空の携帯で確認したメールが夕方家に帰って確認すると確かに現実に着信していたと言うことなのです。
コオロギのアトリエ