139 「水晶」
30代前半の頃にハワイで購入した水晶のペンダントトップに飽きて新しい水晶を探すのですが、そのころはまだパソコンなど持っていませんでしたのでひたすら歩いて探すことにます。
結局、由布院の小さな宝石店で鍵のかかったショーウインドーの中に鎮座するそれを見つけるのですが、私はそれを一目で気に入ってしまいました。
それは厚みが6~7ミリで直径が50ミリ程の円形で、裏と表に正三角形が正位置と逆位置にカットされており、その『六ぼう星(ヘキサグラム)』に見える美しい水晶は上品なシルバーの枠に優しく包み込まれ何とも気品のあるペンダントトップに仕上げられていました。
店員さんに値段をたずねると店長が不在なのでわからないとのこと。2日後にもう一度出直すと、店長はついさっき出かけてしまったと言うのです。店員さんが言うには水晶の値段はおよそ5万円位だということで更に2日後に代金を用意してお店を訪ねるのですが、やっと会えた店長は私にいきなりこう言うのです。
「何度も足を運んでいただき申し訳御座いません。この水晶はお客様に持って帰って頂く運命の石ですので代金は結構です」
何やら怪しい商売の前振りなのかと疑ったのですが、どうも本気のようなのです。いくらなんでもそれではあんまりなので、いくらかでも払わせて欲しいと言うと、それは出来ないとガンとして受け取らないのです。
スッタモンダの末に何とか3000円は受け取ってもらったのですが、返って中途半端な感じになってしまった事を後悔しました。
購入する側と販売する側が逆転してしまったという不思議なお話です。
コオロギのアトリエ