138 「悪口」
東京時代に友人と2人で渋谷の町をブラブラしていた時のことです。私達の歩く前方50メートルくらいの所を背の高い北欧系の男性の外国人の方が歩いていました。
今思えば何故その時そんなことを思い立ったのか不思議でならないのですが、声をかけてみたのです。勿論実際には声は出さずに心の中でです。ところが偶然に振り返ってくれたものですからしばらく時間を置いてもう一度試してみます。何と絶妙なタイミングで再び振り向いてくれたのです。
彼はしばし何かを探すようにキョロキョロした後また歩き出すのですが、調子に乗った私はわざと悪口を心の中で思ってみたのです。すると彼は立ち止まり、クルリと体を反転させたかと思うと真っ直ぐに私の方に向かって歩いて来るではありませんか。
まさかと思いましたが彼は私の前で立ち止まり流暢な日本語でこう言ったのです。
「それは違います」
少し微笑みながらそう言うと人波の中に見えなくなりましたが、一連の流れを知らない友人は私よりも驚いていたようでした。
私が彼に対して言った悪口はここでは書けませんが、もし彼が本当にそれに対してあのような反応をしたのだとしたら可なり衝撃的な事ではあります。
コオロギのアトリエ