210 「ポニータ」
この話は別に不思議な話ではありません。しいて言うなら自分の人生の中で動物園の『動物ショー』をやっていた時期があるということが不思議といえば不思議なのですが…
その動物園は日本全国を移動しながらその土地で30日~60日の簡易動物園を開催するというものなのですが、簡易と言っても動物全体の種類は100種類を超えており、動物の数も500頭を超えていたと思います。ただしキリンとサイはいませんでした。キリンは移動の際にトンネルに頭がつかえるからで、サイは力が強いので簡易の檻では持たないからです。
その動物園に訳あって1年ほど厄介になるのですが、そこでの私の仕事は種類ごとに檻に入った50頭ほどのサルの管理と巨大テントの中の世界各国の珍しい鳥と小動物の管理でした。
ところがあるとき屋久ヤギのショーの担当者が急遽動物園を去ることになり、ショーの道具運びやセッティング手伝っていて大方の流れを解っている私に白羽の矢が立ちました。動物ショーは午前と午後の2回あり、ゾウのショーとチンパンジーのショーの間に屋久ヤギのポニータちゃんのショーがあるのです。
屋久島出身のポニータちゃんは体の模様に特徴のあるとても可愛いヤギで、性格もおとなしく賢いので私が何もしなくても『火の輪くぐり』や『5メートル級ジャンプ』といった一通りショーの構成を覚えており、私はその横でキンキラキンの衣装を着てニコニコしていれば何とかなりました。
結局半年くらいは舞台に立ったのですが、その頃には普通に『屋久ヤギのおにいさん』として子供達から熱烈なファンレターをもらうようになっていました。
コオロギのアトリエ