301 「火傷」
数年前に妹からこんな話を聞かされました。その日、妹は友人とあるレストランに入ったそうなのですが、妹の話に登場するそのレストランはレストランと言うよりはおしゃれなオープンカフェのようでした。
そのお店のテラスで軽い食事をしていると突然厨房から悲鳴をあげながらお店の御主人が飛び出してきたそうです。どうやら間違って油をかぶってしまったようで、その後の営業を続けられなくなるほどのひどい火傷だったために結局食事の料金も受け取ることもなくお店は閉められたらしいのですが、その時は妹の珍しい体験のひとつとして普通に聞いた覚えがあります。
そんなこともすっかり忘れたある日のこと、個展の為に朝から会場に詰めているところに妹が遊びに来たので昼も近いということもあり近くのお店で妹と食事をします。
食事の後にお店の外にあるベランダのテーブルでコーヒーをいただくのですが、会話の途中で妹が『…実はこのお店なのよ…』と言うのですがその時は何の事かわからず、私が『・・・何が?』と妹に聞き返した正にそのときです。奥の厨房から悲鳴を上げながら油まみれの店主が飛び出て来たのです。
結局料金も請求されないままお店は強制的に閉店するのですが、そのお店こそが数年前に妹が言っていた例のお店だったのです。
生涯に2回しか訪れたことのないお店で2度ともトラブルに巻き込まれる妹の不運はただの偶然だったのか、それとも妹に原因があるのか、もし妹に原因があるとするなら不運なのはお店の御主人の方な訳で、真相は未だにわからず仕舞いのままですがとりあえず妹には今後2度とあのお店に近づいてほしくないと思っています。
何とも不思議な体験ではありました。
コオロギのアトリエ