不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

313 「除夜の鐘」

季節外れで申し訳ありませんが、正月早々に知人から聞いた話です。彼女は県北の山深い地域に住まいを構えているのですが、去年の大晦日からの雪で新年は20センチほどの積雪の中で迎えたそうです。

いつもなら年が変わる午前0時の時報を待たずに床に就くご主人がその日は何故か0時30分頃になって「除夜の鐘をつきたい」と言いだしたそうです。除夜の鐘は普通大晦日の内からつき始めるものですし、この積雪では車も出せないので諦めるように説得したらしいのですがご主人は歩いてでも行くと言いうので仕方なく徒歩で40分以上かかるお寺を2人で目指したそうです。

民家もまばらな雪道をしばらく歩いたところでご主人が近道をしようと言いだしメインの道から杉林の中に入り込んだらしいのですが辺りは一面の雪で、しかも真っ暗ですから懐中電灯の灯りひとつを頼りに歩を進めているうちにいつの間にか方角わからなくなり、ついには道に迷ってしまったらしいのです。

                         除夜-s


 

1時を過ぎても杉林を抜けられず、状況的にはプチ遭難のような感じだったらしいのですが奇跡的に灯りを見つけます。その灯りは杉林の中の少し開けた場所にある御神楽の舞台のようなものをぐるりと取り巻くようにぶら下がった電球の灯りだったらしいのですが、その舞台以外には建物らしきものは何もなく、人の姿もなかったそうです。

舞台と言っても屋根も何もない地上から1メートル程の高さに畳3枚分位の板を張っただけの簡単なものだったらしいのですが、何故か板の上にはほとんど雪が積もっていなかったそうです。気味が悪かったのですが何となく有難い感じがしたので二人はとりあえずその舞台に手を合わせ、除夜の鐘をあきらめ来た道を引き返すのですが、不思議な事に帰りはあっという間に杉林を抜け10分ほどで見慣れた自宅の前の道に出たそうです。

彼女は「まるで狐につままれたようだ」と言いますが、私は逆に狐に助けられたのだと思いました。実はその地域は昔から狐を御神体とした神社仏閣の多い地域なのです。

コオロギのアトリエ