355 「ひとり遊び」
子供の頃、天気の良い日に野原に寝っ転がってボーっと青空を見ていると半透明のミミズのようなヒモのようなものが見えるのですが、すぐにそれは自分の眼球の中で起こっている現象だということは理解できました。
それが眼球の表面で起こっている事なのか内部で起こっている事なのかはわかりませんでしたが、いつの間にか一時もジッとしていないそれを、眼球を上手に動かすことで眼球の中心でしばらく静止させるという遊びにしてしまいます。
眼球の中心で静止させることが出来ると形や模様を詳しく観察出来るようになり、それが面白くて1年以上自分だけで楽しんでいたのですが、ある時それは何かの病気ではないのかと思い始めます。ところがその半透明のヒモのことを友達に伝えようとしても上手く伝わらないのです。
表現力の未熟さもあったのでしょうが、それを誰とも共有できないことで一気に不安になってきます。いよいよこれは自分だけの病気なのだと思い始めたときにJちゃんだけがそれをわかってくれました。というのはその半透明のヒモを絵に描いて見せたことで理解してくれたのです。
それからは手あたり次第友達にそれが見えるかどうか絵に描いて見せて確認するのですが、約70%の確率で見えていることがわかって安心しました。いつの頃からかおそらくそのヒモ状ものは古くなった毛細血管の残骸だろうと自分で勝手に決め込んでしまっていたのですが、医学的には『飛蚊症』という立派な病名がついているようです。
別段生活に支障はないので未だに放ったままですが、こうしている時でも半透明のヒモは視界の右から左へゆっくりと移動しています。
コオロギのアトリエ