不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

016 「ニワトリ」

  これは不思議な話と言うよりはどちらかと言うと残酷な話です。高校二年生のときの話です。その頃ケンタッキーフライドチキンがあったのかどうか良く覚えていませんが、休み時間に何故か鳥の唐揚げの話で盛り上がり、その内H君が唐揚げを私にご馳走すると言い出したのです。

最初は冗談だと思っていましたが、聞くとHの家ではニワトリを沢山飼っているらしく、調理も自分で出来ると言うことでした。それならご馳走に預かりましょうと友人M君を誘って学校帰りにH君の家に直行しました。H君の家は昔ながらの農家らしく、立派な造りの大きな屋敷の庭先に確かに沢山のニワトリが飼われていました。

M君と私は二階のH君の部屋で待機するように言われたので、H君の行動を二階の窓から見守ることになりました。私服に着替えたH君は手馴れた様子でニワトリを一羽抱えて庭の隅に座り込むと、突然ニワトリの羽をむしり始めました。悲鳴のようなニワトリの声を聞きながらしばらく成り行きを見守っていたのですが、暴れまわるニワトリがH君に襲いかかるのを見て、たまらず我々も庭に出て行きました。

「ちょっと、足、持っていてくれ」

私は怖くて持てなかったので、M君に無理やりニワトリの足を持たせました。私は少し離れた所からその状況を見守りましたが、容赦なく羽をむしるH君と必死で足を押さえるM君の間でみるみる羽が無くなっていくニワトリを見ながら、どうも何かが違う気がしていました。

そうこうしていると突然M君がニワトリから手を離したものですから、H君も暴れるニワトリを制御することが出来ず、ついには手を離してしまったのです。顔の部分だけ羽を残して庭を走り回る殆んど裸になった凶暴なニワトリは捕まえるどころの騒ぎではないのです。


見かけも怖い上に興奮して凶暴になってしまっているのでこちらに向かって来られると怖くて近寄れません。まるで小さなティラノザウルスの様になってしまっているのです。なるほど鳥が恐竜の子孫だということをその時に初めて身にしみて思い知らされました。三人は庭の中をしばらく逃げ回りましたが、ティラノのニワトリは床下に逃げ込んだままそれっきり出てこなくなり、結局、唐揚げにはありつけませんでした。

未だにそのニワトリの消息は不明です。


コオロギのアトリエ