不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

019 「消滅ー2」

 私は『滝』を観賞するのが好きで、特に安心院の東椎谷の滝には年間二十回近くは行くのですが一人で行くのもつまらないので大抵、誰かと一緒なのです。その日も作家のTさんが同行してくれました。心行くまで滝を堪能した後、帰路に付いたのが午後四時を少し過ぎた頃でしょうか、いつものように国道500号線を別府方面に向かって走りながらTさんと滝の話で盛り上がっていたのですが、ふとルームミラーに目をやると私の車の後ろに白い車がピッタリ付いているのが確認できました。

車は白のセダンで二十代前半と思われる男女が乗っていました。運転する男性のとなりで悲しそうにうつむく女性の表情が印象的でしたが、それにしても車間距離が近すぎるのです。その道路は山に沿ったカーブが多いので追い越しのタイミングを計っているのだと思った私は気を利かせて白い車が楽に追い越せるように少しスピード落としたのですが、車は一向に私の車を追い越そうとしません。



私に嫌がらせをしている訳でもないようなのですが、私は1メートルもない車間距離に危険を感じ始めていました。何かの拍子にブレーキでも掛けようものなら間違いなく追突です。運良く100メートルほど先に駐車スペースを見つけたので、早めにウインカーを点滅させ極力ブレーキは踏まずに車を左の駐車スペースに滑り込ませました。

ところが私の車の横を通り過ぎるはずの白いセダンは一向に姿を見せないのです。バックミラーで確認してもUターンした形跡もありません。私の気付かないうちに通り過ぎたのかと思い、助手席のTさんに尋ねてみたのですが、車は通り過ぎてはいないと言います。それどころか信じられない事を言い出したのです。

そもそも後ろに車はいなかったというのです。Tさんが言うには、バックミラーに映る美しい景色を常に確認していたらしく、後ろに車がいたら絶対に見逃すはずはないと言います。会話の途中で私が急に黙り込み、どうしたのかと思っていた所に突然車を止めたものだから私が怒っているのだと思っていたようです。
 
不思議で仕方ありませんでしたが、私は今でも助手席の女性の悲しそうな顔をはっきり覚えているのです。


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