不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

025 「アトリエ」

山の中のアトリエに2年も居ると、ある日突然違った環境に憧れたりするものです。
その日は朝から佐賀関の海の近くをブラブラしながら海のアトリエを想像してみたり、安心院の草原に足を伸ばして大草原の中の新しいアトリエをイメージしたりして夢を膨らませていたのですが、ふと『あまり行ったことのない土地に行くのも面白いかも』と思ってしまったのです。

出来るだけ知らない道を選びながら車を走らせていると結局、高崎山の裏側あたりに出てしまいました。地元の人に言わせるとこっちが正面らしいのですが、いずれにしても生まれて初めての場所ではありました。見晴らしの良い高台を見つけたので車を乗り入れすばらしい風景を堪能していると、ひとりのご老人が近寄ってきてこう言ったのです。

「あんた、絵描きさんかな?」

私が驚いていると更にこう続けたのです。

「昨日、夢を見てな、訪ねてきた絵描きさんに部屋を造らんといかんのよ。この位でいいのかな」

そう言うと足で地面に線を引き始め、みるみる大きな長方形が出来上がりました。それはアトリエの大きさだと言うのです。
あれよあれよという間に3週間程で立派なアトリエが完成したのですが、実はその土地は木材屋さんの土地で、ご老人はそこの社長さんでした。余った木材とはいえ、見ず知らずの絵描きに30畳余りのアトリエを建てて下さったのです。



ご好意に甘えて結局7年もそのアトリエを使わせていただくことになりましたが、お蔭様でそのすばらしい環境下で制作させて頂いた数多くの作品はことごとく充実した作品になりました。今更ながら心から感謝しております。


コオロギのアトリエ