不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

027 「砂金」

小学5年生の夏休みも間近なある日のことでした。その頃には一年前に始まった北側の山を削る工事もひと段落していて、ブルドーザーやダンプカーの姿は殆んど見かけなくなっていました。

切り開かれた広大なスペースの東側には切り立った山肌がほぼ直立の形でむき出しになっていて、その絶壁の中ほどにある棚状になったスペースには少し勇気を出せばロッククライミングよろしく登っていくこともできました。子供たちにとっては絶好の遊び場が出来たわけです。
  
いつものように5~6人で遊んでいると、山の壁の棚の右端に同じ年頃の子供が壁の方を向いて座っているのを誰かが見つけました。十メートル近くの壁をよじ登り、この辺では見かけないその少年に近付いてみると、少年は壁に向かって座り込み何かを探すように壁にピッタリ顔をくっ付けて時々壁を指差しています。

なぜか左手には自動販売機で売っているお酒のワンカップの空瓶を大切そうに持っていました。そんなシュールな状況に一瞬しり込みしたのですが、こっちは人数が居ますから誰とはなく質問が始まって、大方質問が終わった頃には皆それなりに納得していました。

彼は隣町の小学校に通う5年生で二週間ほど前からここで砂金を集めているという事でした。見ると彼の前の壁は周りの硬い土の壁とは違い、そこだけ砂の層になっていて確かに砂に混じってキラキラと光る砂が無数にありました。ワンカップのビンの底には微量ではありましたがその光る砂がありました。 

 

  

それは1ミリ前後の四角形でとても薄い砂でしたが、彼は砂の中からそれを一粒ずつ摘まんではビンに選り分けていたのです。余りにも真剣な彼の態度に我々は決して彼の砂金採取を妨害しないことを約束しました。彼は夏休み中ほとんど毎日決まった時間に現れ、決まった時間に帰っていきました。 

夏休みも終わりに近付いた頃ワンカップのビンを見せてもらったのですが、砂金はビンの底から5、6ミリの高さになっていました。ビンの中でキラキラ輝くそれを見て、とても感激したのを覚えています。

それは砂金ではなく、黄鉄鉱であろうという大人の説明は早い時期に聞いてはいたのですが…


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