不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

031 「鍵」

時間の在り方には漠然と疑問を感じてはいたのですが、小学2年生の時に体験した不思議な出来事はその後の時間と言うものの考え方に大きな影響を与える事になりました。

家から小学校までの歩いて30分ほどの通学路は雨が降ればそこらじゅうに水溜りが出来るほこりっぽい道でした。その日の朝もいつものようにいつもの友達といつもの通学コースを歩いていたのですが、たまたま蹴飛ばした小石が道の端っこで「カチン」と何かにぶつかります。

それは鍵でした。今時のスマートな鍵と違って、当時の鍵は真鍮製の胴体が円筒形になったマンガみたいな鍵なのですが、それはどう見ても自分の家の玄関の鍵なのです。いつも見ているものですから間違えることはありません。ただ、短い赤い毛糸が結ばれていることには違和感がありました。



「なぜ家の鍵がこんなところに」とは思いましたがとりあえずポケットにしまい、その日の授業を終え帰宅するのですが、その頃には拾った鍵のことなどはすっかり忘れているわけで、鍵のかかった玄関を不審に思いつつ裏口にまわると母親が洗濯物を取り込みながらこう言うのです。

「おかえり、ゴメンゴメン玄関の鍵なくしちゃったのよ」

玄関の鍵はかけても裏のサッシは開けっ放しといういい加減な家でしたから生活には何の問題もないのですが、ポケットの中の鍵の説明は母親には理解してもらうことは出来ませんでした。母親が鍵をなくしたのが昼の12時前後で、私が鍵を拾ったのが朝の8時前です。信じてもらえるわけがありません。

結局学校の帰りにその辺で拾ったのだろうということで決着がついたのは、私もそのことを理解出来なかったのと、どうせ信じてはもらえないだろうという思いからでした。

母親も赤い毛糸のことは不思議がってはいましたが、それ以降その鍵は我が家で普通に使われました。


コオロギのアトリエ