不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

033 「訪問者」

挾間のアトリエには大物を出し入れするために入り口のドアとは別にシャッターを取り付けていました。雨の日や風の強い日はシャッターを閉めていましたが、いつもは開けっ放しでした。  

その日は天気も良く暖かい日だったのですが何故か昼近くまでシャッターは閉めたままでした。そのシャッターを外から『ゴン、ゴン』と叩く人がいます。『ガン、ガン』ではなく弱々しく『ゴン、ゴン』なのです。どうかすると『コン、コン』位の感じです。しかも叩く位置が異常に低いのです。

小さなコロボックルがノックしているくらいの位置です。昼間ですからそれほど恐怖感はありませんが通常の事ではないことは確かなのですからそれなりに緊張はします。止むことのないノックの音を聞きながらいつもの癖でシャッターの向こう側の状況を想像してみました。
 
その1 身長10センチくらいのコロボックルがノックしている。

その2 ひなたぼっこをしている野良猫のシッポがシャッターにあたっている。

その3 ひん死の人が這いつくばった状態で息も絶え絶えに最後の力を振り絞って助けを求めている。

その3番目の情景をリアルにイメージしてしまったものですから「大丈夫ですか!」と声にこそしませんでしたが、かなり慌ててシャッターを開けることになりました。

突き指みたいになりながらシャッターを持ち上げ、足元の訪問者を見て私は「うわぁぁぁ」とドラマみたいな悲鳴をあげてしまいました。それを見た瞬間私はそれを『ウミガメ』だと思ったからです。それくらい大きな石亀でした。実際、小さなウミガメくらいの大きさで、両手で持ち上げたとき腰を悪くするのではないかと思われるくらいの重さでした。



しばらくアトリエの中で遊ばせた後、近くの川に返してあげましたが、その日以来、何となく良い事が起こりそうな気がしてならないのですが、あれから10年が経っても未だに何も起こりません。


コオロギのアトリエ