不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

035 「逆浦島」

  随分前にハワイに遊びに行ったときの驚異の体験です。ホテルはオアフ島のワイキキビーチの側でしたので、着いてすぐにビーチに繰り出しました。私は泳げないのでビーチの外れでブラブラしながら生まれて初めてのハワイを堪能していると、貸しボート屋のお兄さんに「沖のサンゴ礁に行ってみないか」と声をかけられました。

沖を見ると確かにサンゴ礁が見えます。白いサンゴ礁です。ですがかなりの距離なのです。お兄さんはシツコク「ゴムボートを借りろ」と言ってきます。それがケッコウ高額なので丁重にお断りすると、今度は「浮き輪を借りろ」と言ってきます。どうも水深があるようなので深さをたずねると、深いところで胸くらいだと言います。

私が歩いて行くというと『なんてケチな日本人なのだ』みたいな顔をされ、結局10ドルで小学生の頃に履いていた上履きみたいな靴を売りつけられました。確かにそれを履かなければ足元がゴツゴツした沖のほうでは上手く歩けないのです。

いざ沖に向かって歩き始めると、思っていた以上に距離があることに気がつきます。途中で引き返そうかとも思いましたが一生に一度のことかもしれないので頑張って進むのですが、20分ほど進んだところで急に水深が増してきたのです。ほとんど首くらいまで浸かりながら海岸を振り返ると人が米粒のように見えます。

そのうち波が来ると体が浮くようになり、爪先立ちでも足がとどかなくなりました。そこに大きな波が来たものですからアッという間に波に飲まれ、水中で成すすべもなく、もみくちゃになってしまいました。まだハワイの何も知らずに命が尽きることを残念に思い、浮き輪を借りなかったことを後悔しながら、とりあえずジタバタしていると右手が何かをつかみます。

「わらをもつかむ」とはよく言ったもので、もうこっちは必死ですからつかめるものなら何でもつかみます。私の両手がつかんだのは何とウミガメの甲羅でした。亀の首の上のチョッと湾曲した甲羅の淵をガッチリつかまえたのです。嘘みたいな話ですが本当のことです。今思えば亀のほうから意識的につかまらせてくれたのではないかと思っています。



次の瞬間、私の体は水面に出ていました。しかし、90センチほどのウミガメの背中に腹ばいになった形で両手をまっすぐに伸ばした状態で水しぶきをあげるくらいの高速で沖から海岸に向かって日本人が近づいてくるのです。海岸にいる人達が驚かないはずがありません。チョッと見にはボディーボードの人に見えなくもありませんが、スピードが半端ではありません。ウッカリすると振り落とされそうなスピードです。しかもよりによって一番人の多いポイントに上陸です。

ウミガメが岸の10メートルほど手前でUターンしそうになったのをキッカケに亀から手を離し立ち上がると、どこからともなく拍手が起こりました。中には「オーマイゴッド」と言っている人もいます。私は恥ずかしくて逃げるようにホテルの部屋に戻りましたが、このことは誰に話しても信じてはもらえませんでした。


コオロギのアトリエ