不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

036 「カレー」

   東京時代…なんかこう書くと「江戸時代」みたいな年号っぽく聞こえますが、東京で生活していた時代ということです。東京時代は7年間で5回引越しをしたのですがその中に高円寺のアパート時代が2年間あります。共同トイレでもちろん風呂なしのオンボロアパートなのですが、1階と2階を合わせて12室というケッコウな大きさでした。  

そのアパートの2階の一番奥の部屋にKさんという音楽好きの住人がいるのですが、ほとんどが20代の中で38歳と年齢もグンを抜いて、実質そのアパートのヌシみたいになっていました。2階の住人は何事かあると、いや、何もなくてもKさんの部屋に自然とたむろするのですが、その夜もKさんの部屋には4~5人の住人が集まってKさん自慢の手造りスピーカーからほとばしるロックのリズムに酔いしれていました。

さすがにフルボリュームではありませんでしたが、かなりの音量でお互いの話し声は聞き取れないくらいです。と、突然Kさんが口元に人差し指を立て、ステレオのボリュームを絞り始めたのです。部屋にいた連中は何が起こったのかとそれぞれに息をこらして成り行きを見守っていたのですが、完全に音を消した後、Kさんは声を殺して我々にこう言ったのです。

「…カレーの匂いがしないか?」



不思議なことにその時はなぜかそこにいた全員がそれを間違った行為だとは思はなかったのです。その間違いに気づいたのは随分たってからのことでした。

(聴覚と嗅覚を混同していたと言うことです)

コオロギのアトリエ