041 「通信」
私には子どもの頃から変な癖がありまして、『未来の自分と連絡をとる』という決して人には言えない奇妙な癖なのです。たとえば小学生の頃、授業に飽きると窓の外に今の自分を見ている未来の自分を想像していました。
それがなぜか決まって四十代の自分なのですが、『もしかすると大人になった自分の意識が今の自分とコミュニケーションを取ろうとして時を超えてこの時間に来ているのかも知れない』そんな事を考えながら窓の外に未来の自分を探していたように思います。偶然に頬を触られたような感覚があったりすると『やっぱり来ているんだ』と、ひとりで喜んでいました。
その癖は二十代や三十代になっても変わりませんでしたが、その方法は少し変わってきていました。就寝前に布団の中で四十代の自分と時空を越えて会話をするのです。それは相談であったり、愚痴だったり様々ですが、生活をスムーズに営む為には結構効果的な連想ゲームでした。
四十代になってもそれは続いていたのですが、ひとつだけ違うところがありました。それは未来の自分ではなく過去の自分と交信していると言うことです。小学生の自分の頬を触ってみたり、二十代、三十代の自分の相談にのったりしているのです。
「大丈夫、何も心配する必要はないよ。四十代の自分は結構楽しくやっているよ。今は少々辛いだろうけど決して無駄なことではないのだから僕を信じてもうチョットがんばってみなよ」若い頃の私は、確かにこれと同じ言葉を聞いていました。
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