不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

047 「ビン(後)」

 何かの見間違いではなかろうかと至近距離で一文字一文字確認するのですが、あろうことか、その紙切れには私の名前と当時思いを寄せていた同級生の女子の名前が書かれていたのです。意味がわかりませんでした。そのビンはどう見ても十数年もしくはそれ以上の時を経ているのは明らかですから絶対に誰かのイタズラではありません。もちろん前もって土を掘り起こした形跡などないのです。

ただ、相合い傘をはさんで書かれた女性の名前はフルネームなのに対して私の名前は漢字で書かれた苗字に名前の部分が頭文字の「T」となっていることから、過去に私と同姓の人物が同じようなことを思いつき、それをたまたま掘り起こしてしまったのだろうということで何となくその場は決着がつきましたが、実のところ私の苗字はかなり珍しいので確率的にほとんどありえないということはその場の全員が思っていたはずです。

それから30年以上が経った今でもその湖に行くたびにそのことを思い出してしまいます。実はつい最近、たまたま十数年前に他界した親父の書き損じたハガキを実家で偶然に目にする機会があったのですが、どうも似ているのです。あの時見た文字とどことなく似ている気がするのです。しかも親父の名前の頭文字は私と同じ「T」なのです。



もしかすると若き日の親父が偶然に同級生と同姓同名の女性と恋に落ち、思い出をビンに詰め、あの木の下に埋めたのではないのでしょうか。もう一度掘り起こして確認しようにも永い月日の間に湖畔は様変わりしてしまい、湖畔に生茂る大木のどれが目印の木だったのかも今ではわからなくなってしまいましたが、そのどれかの大木の根元には今でもあのビンが埋まっているはずなのです。
…なかよく二本並んで。


コオロギのアトリエ