不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

050 「ショートケーキ」

   日常の出来事は時としてこちらの想定した予定を無視して無理やり別の「結果」に至ることがあります。小学校の2年の夏休みのこと、家には私ひとりきりで時間はお昼過ぎだったと思います。近所のおばちゃんが「公民館でショートケーキを配るので入れ物を持って行くように」というので適当な皿を持って、歩いて2キロほど離れた公民館までイソイソと出かけます。

なぜショートケーキなのかという疑問がわかなかった訳ではありませんが、クリスマス以外にケーキが食べられるという感激の方が上回っていたため何の疑いもなく公民館に到着します。(当時、私の中でケーキは冬の食べ物でした)
公民館の入り口ですれ違う人達がなぜか全員、白い液体の入った一升瓶をぶら下げているのを不思議に思いつつ、公民館の中に入ると、どこかのおばちゃんが私の名前を呼びます。

当時は地域全体が家族みたいな感じでしたので、私がどこの誰の子供かという情報も筒抜けです。

「たかちゃん、入れ物はどうしたの?」

どうしたのと言われても入れ物はその皿一枚しかありませんからその皿をおばちゃんに差し出します。

「…ショートケーキを…」

一瞬の沈黙の後、部屋の中にいた十数人の大人たちがいっせいに吹き出したのです。そんな失礼なことはありません、いくら家族も同然と言っても、いたいけな子供ひとりを大人達はよってたかって笑いものにしたのです。ほとんど泣きそうになっている私に笑いをこらえながらおばちゃんは言いました。

「ショートケーキじゃなくて消毒液よ」
(当時はまだ汲み取り式のトイレがほとんどでしたので年に2回位のペースで消毒液の原液が配給されていました)



結局そのおばちゃんが一升瓶を用意してくれ、しかも何と、当時滅多に目にすることのないイチゴの乗ったショートケーキまでいただいたのですが、一升瓶とケーキは一度に持て帰れないということで、ケーキは公民館の消毒液を配るおばちゃんの横で泣きながらご馳走になりました。


コオロギのアトリエ