不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

057 「声」

そのKさんも数年前に他界されましたが、彼がまだ若い頃に私にこんな話をしてくれたことがあります。
終戦間もない頃、子供だったKさんが近くの川原で見つけた「不発弾」で負傷し、助けを求める為にとりあえず川の土手を登るのですが、目が開けらず何も見えないのでどうしていいかわからずに途方にくれていると、どこからか人の声が聞こえたそうです。

耳を済ませて聞いてみると「夕陽に向かって進め…夕陽に向かって進め…」と老人のシワガレ声で何度も繰り返していたそうです。目をつぶっていても太陽の方角はわかったのでKさんはその言葉に従って土手を夕陽の方角に進んだそうです。



しばらく歩いたところで運良く近所のおばさんに発見されて病院に連れて行かれるのですが、不思議なのはKさんが亡くなる1年ほど前に偶然会ってお茶をしたときにたまたまその話になり、そのことに関してKさんから聞いた話です。

Kさんが言うには「あの時聞いた老人の声は今の自分の声だ」というのです。どういうことかと聞くとKさんはこう言いました。
「もしかすると人が死ぬ瞬間には人の意識は時空を超えることが出来るのではなかろうか。おそらく命が尽きる間際の自分の意識が時空を超えて子供の頃の自分の危機を救ったのではないのか」というのです。

子供の頃のKさんが聞いたあの「夕陽に向かって進め…」のシワガレ声は、肺の病気で思うように声の出なくなった亡くなる間際のKさんの声だったのかと思うと何ともいえない気持ちになるのです。


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