059 「UFO-3」
錯覚というのはそれが間違いだとわかっていても視覚的にはそう見えてしまうので困ってしまいます。例のKさんとは同じ寮の2階で生活していたのですが、彼のハギシリがひどいということもあって部屋は4部屋あるうちの一番端どうしでした。(それでも聞こえていましたが…)
8月のある週末、二人とも大分には戻らず休日もそれぞれの部屋で思い思いのことをしていました。昼食が終わってしばらくしてからですから1時半くらいでしょうか、突然Kさんが私の部屋に入ってきました。彼の深刻な表情から察するに何やら只ならぬ問題を抱えていることは察しがつきました。どうしたのかと訊ねると例の調子でこう言うのです。
K「君はUFOを信じるかね…」
私「信じていますよ。それがどうかしたのですか?」
K「驚かないで聞きたまえよ。実は僕の机の下にUFOがいるのだよね」
私「…えぇぇぇー」
おそらくその時点で私は催眠術にかかったような状態だったのかも知れません。勿論Kさんにしてみればそんなことを企んでいるわけではありませんから至って淡々と、しかも冷静に事を進めるので更にその状況はシュールなものになっていきます。
K「小さいのだよ。直径12~13センチの円盤だ。それが机の下でホバーリングしている」
こうなると私の想像力は全開になりますからKさんの部屋に入るまでに机の下のUFOのイメージは完全に出来あがっています。
K「あれだよ…」
入り口のドアのところからKさんが指差す先には、まさかの小さなUFOが机の下の薄暗い空間にフワフワと浮いているではないですか。そこにKさんのトドメのお言葉が炸裂します。
K「UFOの正面に開閉口が見えるだろ、さっきあれが開いて中から出て来たのだよ」
私「…な、な、何がですか…」
つづく
コオロギのアトリエ