不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

061 「犬の絵」

中学生の頃に学年単位である美術の展覧会を観に行ったことがあります。それがどのような美術展だったのかはよく覚えていませんが、数多くの作品が展示してあり、それほど有名ではない作家の作品も沢山あったように思います。その中に一点だけ妙に気になる作品がありました。

小さな作品(15号~20号)だったのですがとても気になるのです。それは木立の間から差し込む夕陽の赤を受けて逆行で黒い影の塊のようになった「犬」らしきシルエットが画面の中央で誇らしくも寂しげに佇むという、一見子供の描いたような絵なのですが、なぜかその絵の前から動けないのです。



今でも不思議に思うのですが、なぜか「この絵は自分が描いた絵だ」と本気で思ってしまったのです。あんな経験は後にも先にもその一度きりです。それがきっかけで絵を描くことになるのですが、数十年間そのことをすっかり忘れていたのは抽象的な仕事がメインになっていたからかも知れません。ところがある日突然「犬」が具体的な形で画面に現れます。

その時点ではまだそのことを思い出してはいないのです。そのうち「犬」しか描かないようになり、気がつけばその数は150点を超えていました。そしてひょんなことからあの中学生の頃の体験を思い出したのです。

その時の感情は「やっとたどり着いた」、「やっとスタートラインにつけた」というとても奇妙な、ある種肩の荷が降りたようなホッとした感覚だったのを覚えています。

そう言えば東京の美術館で「須田国太郎」の「犬」を観たときもそれに似たような感覚があったのですが、いったい「犬の絵」と自分にどのような因果があるのか、とても気になるところです。



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