不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

063 「たぬきばやし」

 今ではほとんど死語みたいになっている言葉で「タヌキバヤシ」というのがあります。それは「音」に関する不思議な現象で、夜中にどこからともなく鼓(つづみ)を打つような音が聞こえ、音のするほうへ近づいていっても音の発信源を見つけることが出来ないというものです。

昔は今みたいに24時間営業しているお店や夜遅くまで活動している人もあまりいませんでしたから夜の9時を過ぎると静かなものでした。郊外だとなおさらで、夜中に聞こえてくるのは虫の音と梢が風に揺れる音くらいです。その不思議な音を聞いたのは小学3年の夏休みが始まって間もなく頃です。

夜中の11時頃に裏山から突然「ポーン、ポーン」という音が聞こえてきます。太鼓とか鼓のような音ではなく、どちらかというと規則正しい機械的な音でした。時々工事現場で見かける大きなコンクリートの杭を打ち込むときのような感じの音です。距離感をつかめない奇妙な音は30分くらい聞こえているのですが徐々に音は小さくなり、そのうち聞こえなくなります。



それは3日間続きました。夜の11時に始まり30分後に終わるのです。結局、音の発信源も原因もわからず仕舞いでしたが大人たちの間では「あれは狸囃子だ」ということに決着してしまいます。私はその「タヌキバヤシ」が何なのかを知りたかったのですが、大人たちから「たぬきばやし」の詳しい説明は聞けず仕舞いでした。

子供心に昔から訳のわからないことを妖怪変化の仕業にしてしまうのは生活をスムーズに営むための昔からの知恵なのだということを何となく理解しました。私にはどうも山の少し上空から聞こえていたように思えるのですが、その音はそれ以来一度も聞いていません。というか、いつの間にかあの音を聞き取ることが出来なくなってしまっただけなのかも知れません。


コオロギのアトリエ