不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

064 「黒髪」

 世間がバブルの真っ只中の頃の話です。当時福岡でお世話になっていた造形の会社も例外なくバブルの恩恵に与っていて、5日間のハワイ旅行に連れて行ってくれるというのでありがたくお言葉に甘えました。ワイキキビーチが一望できるステキなホテルの部屋は営業のAさんと二人で使うことになったのですが、初日はAさんとは別行動でした。

夜遅くまで遊んで部屋に戻ると部屋の電気は消され、手前のベッドでAさんはすでに眠っているようでした。部屋の小さな電気の明かりを頼りにAさんを起さないようにそっとベッドの脇を通り過ぎようとしたときです。何気なくAさんの方を見ると、長いのです。髪の毛が女性のように長いのです。瞬間、部屋を間違えたと思い、慌てて部屋の外に飛び出して部屋の番号を確認したのですがその部屋に間違いありませんでした。

恐る恐る部屋に戻りもう一度確認したのですが、長い黒髪の主は確かにベッドにいました。いくら考えても訳がわからないので思い切って部屋の電気を点けてみたのですが、電気を点けたことを後悔しました。そこに寝ていたのは「のっぺらぼう」だったのです。私が思い切り悲鳴を上げたものですから黒髪の「のっぺらぼう」も奇声をあげながら飛び起き、ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねるのです。

私は恐怖のあまり気を失いそうになりましたが、「どうしたのですか?何があったのですか」という聞き覚えのある声で何とか冷静さを取り戻し、ベッドの上で跳ねるそれを良く見ると何とヘアースタイルを気にしながら仕切りと髪をかき上げているAさんだったのです。

後で事情を説明してもらったのですが、Aさんには大変失礼なことをしたと心から反省しました。Aさんは若い頃から頭髪が薄く、その頃には頭頂部のほとんどを失ってしまい、営業という職種柄、先方に不快感を与えない為に左側頭部の髪の毛を伸ばし、ターバンのように頭に巻いていたのです。その技術たるや、どこからどう見てもキレイな7,3分けにしか見えないものですから、まさかAさんがロングヘアーだとは思ってもみなかったのです。



それからというもの、Aさんのことが気になってしまい何気に観察してみたのですが、なるほど、風の強いビーチやダイアモンドヘッドでは必ず風上に分け目を向けていました。


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