不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

068 「イルカ」


 誘致された企業が施設を建設する前の埋立地は絶好の釣りポイントでした。広大な砂漠を20分ほどかけて縦断し、四角い埋立地の海に面した一番角のポイントがお決まりの釣り場でした。外海は大きなテトラポットが山積みになっていて危険なのでもっぱら内海の足場の良い場所で釣りをするのですが、テトラポットが盾になり風の強い日や波の高い日でも比較的良い釣りが出来ました。

ある夏の満月の日、その日もひとりでそのポイントで釣りをして夜中の12時近くに引き上げるのですが、ほとんど出口にさしかかったところで「竿立て」を忘れてきたことに気がつきます。そのままにして帰ろうかとも思いましたが、最近買ったばかりの新品でしたので懐中電灯だけを手に釣り場に引き返しました。

「竿立て」を見つけてすぐに引き上げようとしたのですが、見ると海がボンヤリと緑色に光っている場所があるのです。岸から10メートルほど離れたテトラポット寄りの水深1メートルくらいの所が直径1メートルの範囲でエメラルドグリーンに光っているのです。その光が徐々にこちらに近付いて来るので、とりあえずその辺に転がっていたソフトボール大の石を拾っていつでも投げつけられる準備をしていました。

そのときなぜか「イルカ」だと思ったのは気泡が出ていたのと、その動きからからです。後で思えばイルカに石を投げつけるなんてとんでもないのですが、そのときは動揺していてツイそうしてしまったのです。それはわたしの足元から2メートルのところまで近付いてきて、ゆっくり浮上してきました。グリーンの光は段々明るさを増し、それが水面に顔を出したとき目がくらんだのはその光源が私の目に入ったからでした。

そのとき思い余って石を投げつけなくて良かったと思ったのはそれが「人」だったからです。黒いウエットスーツを着て水中眼鏡にアクアラング、額にライトを着けたダイバーだったのです。私を見てダイバーは「ウッ」と声を上げたかと思うとそのまますぐに沈んでしまいました。そしてスゴイ勢いで水中を移動し、あっという間にテトラポットの向こう側の外海に姿を消しました。



いったいあのダイバーが何をしていたのかは今でも謎ですが。人に見られてはいけないことをしていたのは確かなようです。


コオロギのアトリエ