不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

070 「かすりの着物」

 その山奥のアトリエには滅多に人が尋ねてくることはありませんでしたが、ある日突然僧侶が訪ねてきたことがあります。訪ねてきたというより道に迷って仕方なく立ち寄ったらしいのです。最初はスーツ姿の運転手とお話していたのですが、そのうち黒塗りの高級車から紫の衣に金色の袈裟を着けた貫禄のある僧侶が降りてきました。

その見るからに有難そうな僧侶が玄関に立つなりこう言うのです。

「あちらの方は奥様ですか?」

アトリエには私一人ですからそのように伝えますと僧侶は「奥にかすりの着物を着た女性が居られる」と言うのです。普通の人に言われても怖いのに、フル装備の僧侶に面と向かって言われると相当な迫力があります。しかも頭には長い金色の帽子のようなものもかぶっているし…



ひょっとすると新手の詐欺で除霊の為のグッズでも売りつけられるのかとも思いましたが、そうではありませんでした。

「女性は昔この土地に住まわれていた人で、建物とあなた(私)を守っておられる」というのです。僧侶たちはすぐに帰ってしまうのでそれで良いでしょうが、残された私は一人…いえ、かすりの女性と2人きりなのです。

その日は明るいうちに帰宅させていただきましたが、それからというものそのことを意識してしまい、しばらくは落ち着きませんでしたが、結局2年と半年、そのアトリエを有難く使わせていただきました。


コオロギのアトリエ