不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

080 「ライフマスク」

 この話は造形作家Rさんの話です。Rさんが30代の頃、突然自分のライフマスクを作ることを思いたったそうです。ライフマスクというのは顔をコピーして石膏やプラスティックのマスクの状態にしたものです。

今でこそ水性のシリコンで簡単に顔の型を取ることが出来るのですが、当時は石膏を顔に塗りつけて硬化するまで20分程ジッと待つしかありませんでした。

その固まった石膏を顔からはずして、その型に石膏やFRPというプラスティックを流し込んで作るのですが、型さえ取れれば後の作業はそれ程難しいものではありません。しかし自分自身の型を取るとなるとかなり大変で、目を閉じた状態で石膏を顔に塗りつけますから全て手探りの作業になるのです。

Rさんは当時一人暮らしでしたが絶対に人が訪ねてこない時間帯に作業を行う必要がありましたので夜中の12時に作業を始めます。4畳半に新聞紙を敷き詰め上半身裸になって仰向けに寝ます。液体状の石膏が入ったバケツを手の届く所に配置し、硬化の時間を調整しながら顔に塗りつけた石膏は最終的には8センチ位になったそうです。

ところが完全に硬化した石膏はあごの下まで入り込んでいて顔から外れなくなってしまったそうです。呼吸は上手に開けた鼻の穴からできたそうですが、時間が経つにつれ不安が増し、焦れば焦るほど恐怖心が増したRさんは石膏の塊を顔に付けたまま部屋の中をウロウロするものですから色んな物にぶつかり、部屋はメチャクチャです。笑ったのは、30分ほどして少し冷静さを取り戻したRさんがとった行動です。



Rさんは自分の姿を見るために洗面台の鏡の前に立ったらしいのです。見えるはずのない鏡の前に立ち尽くす石膏顔のRさんがその時どんなことを考えたのかと思うと可笑しくてたまりません。更にはタバコを吸おうとしたらしく、手に持ったタバコを何処に持って行ったのかを想像するだけで笑えます。

結局1時間程で石膏はなんとかアゴからは外すことが出来たらしいのですが、今度はヒゲと眉毛が石膏に食い込んで外れないので仕方なく顔と石膏の隙間にカッターを差し込んで1本ずつ毛をカットしていくのですが勿論、顔中血まみれになったそうです。

そのライフマスクは今でも彼のアトリエに飾ってありますが、良く見るとそのマスクにはヒゲと眉毛が生えているのです。


コオロギのアトリエ