不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

084 「サイフ」

「思い込み」というものはその人の想像力に大きく作用してしまうようで、それが良い方に作用すれば問題は無いのですが、大概はそうではない方に作用してしまうようです。

家の者に頼まれて近くのスーパーで買い物をしたときの体験です。買い物を終え、駐車場の車に乗り込んだときに駐車スペースを1台分空けた隣の車に30代半ばの女性が同じタイミングで乗り込むのですが、女性が運転席に乗り込むときに財布を落としたのです。

女性はそれに気づかずに車を発進させようとしていましたので、私は慌てて車から出てその旨を伝えようと車に近付いたのですが、私の方をチラッと見た女性は車を急発進させスーパーの駐車場を出てしまいます。「何で?」と思いましたが私は財布を拾い急いで車で追いかけました。

運良く駐車場を出てすぐの信号で止まりましたので車から降り女性の車に駆け寄ったのですが、女性は信号が変わらないうちに車を発進させたのです。信号で止まるたびに同じことを繰り返すのですが女性は明らかに私を避けているようでした。何度かパッシングもしてみたり、クラクションを鳴らしたりしてみるのですが全く止まる気配はありません。

それどころか私の車を振り切ろうとしてスピードを上げるのです。どうも私をストーカーか変質者と勘違いしているようでした。そのままだと事故につながる恐れがありましたのでとりあえずスピードを落とし、後を追うのですが女性は私の車の存在が気になってしょうがないのでしょう、私の追跡から逃れる為に途中から私を「まこう」とするのです。

わざと細い路地を走ったり住宅街の中に入り込んだりするのですが、かえってそれが女性にとって不利な状況を招く結果となりました。行き止まりになったのです。追跡から15分後のことでした。追いついたのは良いのですが女性は勘違いをしたままですので対応には細心の注意を払わなくてはなりません。

最初は運連席の窓も開けてくれませんでしたが、何とか話を聞いてもらうことで誤解は解け、事の一部始終を理解した女性は平謝りでしたが、その時の私にはどんな感謝の言葉よりも「変質者」でなくなったということが一番うれしかったのでした。



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