不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

107 「帰宅」

 

私がまだ3歳になる前のことです。母親が出産のために入院している1~2週間の間、親戚の家に預けられるのですが、父親が仕事帰りに顔を覗かせる程度では母親のいない幼子の寂しさを紛らわすことはできません。

自分なりに3~4日は努力して我慢しましたが5日目の夕食のときの夕陽の赤い色が何とも哀しくて、食べかけのカレーのスプーンを放り投げて表に飛び出します。さすがに私の子守りにも疲れていたのでしょう、いつもはやさしくしてくれる親戚のおばちゃんがその日に限って相手にしてくれなかったのです。

そのこともあって『家に帰ろう』と思い立つのですが帰り道などわかるはずもなく、わかったとしても幼子の足では到底たどり着ける距離ではありませんでした。それでもとにかく大通りまで歩きました。距離にしたら2キロ位でしょうか、夕方のラッシュ時で大通りはかなりの交通量でしたがとりあえず通りに沿って歩きました。

帰宅-s



そのうち日が暮れてくると一気に不安が襲っています。さすがにどうして良いのかわからなくなり途方に暮れていると誰かに声をかけられます。それが誰だかわからなかったのですが、自分を知ってくれているという安心感と今まで耐えてきた緊張感から開放されたのとで泣き出した私をその人は『なんでタカシちゃんがこんな所にいるの?』みたいなことを言って、自転車の後ろに積んだ大きな箱の中に私を入れて自宅までつれて帰ってくれました。

自転車でも小一時間はかかる距離ですから家に着く頃には真っ暗で、しかも家に戻っても誰もいないわけですからその人も困惑していたようです。ところがその人は「そのうち帰ってくるよ」と言うと玄関に私を残したままそそくさと帰っていきました。幼心に『いいかげんなオトナだなぁ』と思っているところに隣の家のおばちゃんが私を見つけて驚きます。

連絡を受けた父親が駆けつけ、結局大捜索が行われている親戚の家に逆戻りするのですが、そのときオトナ達にどうやって家に帰ったのかを散々聞かれましたが、誰もその自転車の人に心当たりがないということでした。今でもカレーのスプーンや夕焼けを見るとたまにそのことを思い出すのですが、懐かしいような切ないような不思議な気持ちになります。

コオロギのアトリエ