不思議な話(二ーマンのピク詰め)復刻版H

      ー実際に体験した不思議な出来事の記録ですー

338 「端っこ」

父親が亡くなってかれこれ20年になりますが、通夜は式場で行ないました。その式場は体育館のようにだだっ広い式場でしたので通夜に訪れる人もなくなる深夜ともなると会場には親兄弟と気心の知れた数人の従弟だけになり式場はますます広く感じるのですが、最終的には対応に疲れた母親と妹は会場に備え付けの部屋で寝てしまいますのでその広い会場には私と私に気を使ってギリギリまで付き合ってくれている例の従弟のS君の2人だけになります。

気心は知れていますし私も緊張感から解放されて他愛のない笑い話に盛り上がっていたのですが、突然S君が声をひそめてこう言ったのです。

「祭壇の方を見ないで!目の端っこで右側の階段を見て!」

祭壇は会場の突き当たりでステージの様に一段高くなっており、そのステージの左右に3~4段の小さな階段がありました。私達は祭壇から20メートルほど離れた場所にいたのですが、S君が言うには祭壇と90度になるような体勢で正面を向いたまま、眼球を動かさずに視界の端っこの限界の所で右側の階段を見ろと言うのです。

                 はしっこ-s

非常に難しい注文でしたがS君の言わんとする事は何となく理解できました。あまりに真剣に言うので私はそのようにするのですが、驚いた事に視界の端っこで何かが見えるのです。その黒い靄の様なものは階段の途中でユラユラ揺れていました。更にS君は言います。

「なっ、黒いのが見えるやろ、たぶん、あれ、おやじさんやで…それじゃあ僕はこの辺で…」

そう言って帰ろうとするS君を無理やり引きとめたのは『たぶん』と言ったからです。それが父親なら別に怖いとは思わないのですが『たぶん』ではチョット怖かったからです。

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