340 「エレベーター」
知り合いの作家が作品展をするというので挨拶方がた出かけた時のことです。その大きな展覧会場は市街にあり、しばらく訪れない間に専用の駐車場は立派な立体駐車場になっていました。
駐車場入り口の発券機で駐車券を受け取り、螺旋状の通路を車で4階まで登った所で車を止め、エレベーターで1階まで下りるのですが、1階に着いてドアの開く『ポーン』という合図が鳴ったにもかかわらずいくら待ってもエレベーターのドアが開きません。
どうしたのかと思いドアを強制的に開くボタンを何度も押してみるのですが一向にドアは開かないのです。そうこうしている内に『ポーン』という音と共にエレベーターが上昇を始めます。結局元の4階に戻ってしまうのですがその時はちゃんとドアが開き、私がエレベーターから出ないのを不思議そうな顔で見ながら1人の青年が乗り込んできます。
私がドアの側にいますからその小さなエレベーターの中では青年は私の背後に立つことになります。1階に着き『ポーン』の合図が鳴るのですがまたドアは開きません。開くボタンをガチャガチャ押しながら背後の青年に声をかけます。
「…まただ、このエレベーターはさっきもドアが開かな…」そう言いながら振り返ったそこには誰もいませんでした。こうなるとこれはもうオカルトですから悲鳴のひとつもあげなければその場の状況に耐えられません。今の今まで青年が居たであろうはずのその空間を見つめながら今一度悲鳴を上げたその時でした、「どうされましたか!」とドアとは反対側の壁が開いてガードマンが現れたのです。
そうなのです、そのエレベーターのドアは両側に付いており、乗り口と降り口が別々だったのです。エレベーターの入り口は1つだと言う固定観念が引き起こしたオカルト現象でした。
コオロギのアトリエ